モノを認識して数を数えるしくみを解説!ルールベースとAIによる個数カウント技術

画像処理・画像認識によってどのように”モノ”の個数を数えているのでしょうか。写真を元に数を数えるには、大きく分けて、ルールベース(古典的な画像処理)による方法と、AI(ディープラーニングなど)による方法の2つのアプローチがあります。ここでは、それぞれの手法の流れと特長、メリット・デメリットについて順に解説します。

 

モノを数えるしくみを解説

個数カウントの基本的な流れ

まず、個数カウントの具体的な手法に入る前に、共通する基本プロセスを押さえておきます。

  1. 画像の取得:
    カメラなどの撮影装置で対象物を撮影し、画像データを取得します。
  2. 前処理:
    取得した画像に対し、解析しやすい状態に整える処理を行います。例えば、画像のノイズを低減したり、明るさやコントラストを補正したりします。カラー画像の場合、分析しやすいようグレースケール(白黒画像)に変換することも一般的です。
  3. 物体の認識・検出:
    画像の中から数えたい「モノ」に相当する部分を見つけ出します。ここが画像認識の中核となるステップです。ルールベース手法ではしきい値による二値化や輪郭検出などでモノの領域を抽出し、AI手法では学習済みモデルによってモノの位置や領域を検出します。
  4. 個数のカウント:
    認識して抽出された複数の物体について、その個数を数えます。検出された領域やバウンディングボックス(囲み枠)の数を集計することで、画像内に存在する対象物の個数が得られます。必要に応じて、所定の個数と比較して不足や過剰を判断したり、結果をシステムに通知したりします。

 

以上が基本的な処理の流れです。
では、これを実現する2つの手法について、それぞれ詳しく見ていきます。

ルールベース画像処理による個数カウント

ルールベースの手法とは、人間があらかじめ決めたアルゴリズム(手順)やしきい値にもとづいて画像を処理し、物体を見つけ出す古典的な画像処理技術です。プログラミングや画像処理ライブラリ(例えばOpenCVなど)を用いて、対象物を識別するためのルールを設計・実装します。

しきい値処理(二値化)で対象物を抽出

まず典型的な手法として、画像の二値化があります。二値化とは、画像の各画素(ピクセル)について、明るさの基準値(しきい値)を設定し、それより明るければ白、それ以下なら黒、といったように白黒の2値だけの画像に変換する処理です。これにより、画像中の対象物と背景をはっきり分離できます。例えば、明るい背景に暗い色の部品がある場合、適切なしきい値を選ぶことで部品だけが白く抜き出され、背景が黒になる画像が得られます。

ブロブ解析や輪郭検出で個数を数える

二値化した画像では、対象物に相当する部分が白い塊(ブロブ)として現れます。次に、その白い領域を数える処理を行います。これを一般にブロブ解析(ブロブ=塊の意)と呼びます。ブロブ解析では、画像中で連続した白画素の集まりを一つの「物体」として検出します。例えば、二値画像上に白い塊が5つあれば、そこに写っている対象物は5個と判断できます。またOpenCVではブロブ解析に類似した方法として輪郭の検出もよく使われます。輪郭検出では、二値化画像から白領域の外枠(境界線)を見つけ出し、その個数を数えることで物体数を得ます。

このようにルールベース手法では、「明るさがこの値以上なら対象物」「連続した領域を1個と数える」といったルールを人が定め、それに沿って画像データを分析します。比較的形状や色のはっきりした対象であれば高い精度でカウント可能です。例えば、背景が一定の色でノイズが少ない環境では、適切なしきい値を設定するだけで部品を確実に抽出できます。また、抽出した各物体の大きさや形に応じてフィルタ処理を行うことで、ノイズや不要な物体を除外し、数えたい対象だけをカウントする工夫もできます。

 

ルールベース画像処理のメリット・デメリット

メリット デメリット

処理が高速

アルゴリズムがシンプルな分、パソコンのCPU上でもリアルタイムに近い速度で動作します。

柔軟性が低い

設定したしきい値やルールは、照明の変化や対象物の見た目の変動に弱く、条件が変わると途端に精度が落ちてしまうことがあります。例えば少し照明が暗くなっただけで、部品が背景と区別できなくなり正しく数えられない、といったケースです。

導入が手軽

あらかじめ決めた設定を適用するだけでよいため、初期導入のコストも比較的低く抑えられます。環境や対象物の状態が安定していれば、人間が直感的に理解できるルールで確実にカウントできます。なぜその数になったかという結果の把握もしやすいです。

重なりに弱い

複数種類の部品が混在する場合や、部品同士が重なって写っている場合にも対処が難しくなります(重なった物体は一つの塊とみなされ、数を過少に数えてしまうなど)。新たな品種の部品を数える際には、その都度最適なしきい値や判定条件を調整する必要があり、経験が求められます。 

 

以上のように、ルールベース手法は「シンプルで速い反面、対象や環境が限定される場合に有効な方法」と言えます。決まった条件下では安定して動作しますが、変化に対する適応力は高くありません。

 

AI(ディープラーニング)による個数カウント

近年では、AI技術、とりわけディープラーニング(深層学習)を用いた画像認識手法が登場し、複雑な環境での個数カウントも可能になってきました。AIベースの手法では、コンピュータが大量の画像データから自動的に特徴を学習し、物体を検出・分類するモデルを作成します。代表的な技術にCNN(畳み込みニューラルネットワーク)があります。CNNは、人間の脳の神経回路を模した構造を持つ学習モデルで、画像中の形や模様などの特徴を階層的に捉えるのが得意です。

AIによる物体検出の仕組み

AIを使った個数カウントでは、まずカメラで撮影した画像を学習済みのモデルに入力します。例えば、「ネジを検出して数えるモデル」を事前に学習させておけば、新しい画像内でネジが写っている場所にバウンディングボックス(四角い枠)を自動で描画し、個々のネジを認識してくれます。その後、検出された枠の数を数えることで個数を得ます。ディープラーニングによる物体検出モデルとしては、YOLOやSSD、Faster R-CNNといった手法が知られており、これらは写真の中に写った複数の対象物を同時に見つけ出すことが可能です。

重なり合いへの対応

また、対象物が密集していたり一部が重なっている場合にも、AI手法は有効です。従来の二値化では重なる物体は一つに繋がってしまい区別が困難でしたが、ディープラーニングを使えば、インスタンスセグメンテーションと呼ばれる技術で個々の物体をピクセル単位で分離して識別できます。インスタンスセグメンテーションでは、画像内の各物体に異なる色のマスクを塗るように領域分割し、それぞれを別個の「モノ」としてカウントします。これにより、多少重なった状態の部品でも一つひとつ正確に数えることができます。

学習と適応

AIモデルを作るためには、最初に教師データとなる画像を用意して学習(トレーニング)する必要があります。例えばネジを数えたいなら、ネジが写った画像に「ここにネジが何個ある」といったラベル付けを行い、それを多数集めて学習させます。大量のデータがなくても、近年は転移学習という方法で効率よくモデルを作成できます。あらかじめ一般的な画像で学習済みのモデル(例えばImageNetという大規模データセットで訓練されたCNN)を土台にして、その知識を応用しつつ少量の部品画像で再学習することで、短時間で高精度なカウントモデルを構築できます。

AI(ディープラーニング)のメリット・デメリット

メリット デメリット

柔軟

人間がルールをプログラムしなくても、自らパターンを学習してくれるため、外観が複雑な製品や撮影条件が多少変動する環境でも安定した認識が期待できます。また、新しい品種の部品に対しても、データを追加して再学習させれば対応できるため、汎用性があります。

導入・運用コストが高い

モデルの学習には大量の画像データとそれを用意する労力が必要であり、専門的な知識や高性能なコンピュータ(GPUなど)も求められる場合があります。また、運用中に対象物のデザイン変更や新環境への対応が発生した場合、その都度モデルの再学習や調整が必要です。

高精度

現場で対象物の形状や大きさが様々だったり、背景に多少雑音があっても、適切に学習していれば高精度に数を数えられます。

ブラックボックス

完成したモデルは内部の判断基準がブラックボックスになりがちで、なぜその数になったのかの説明が難しいこともあります(判断根拠の可視化には追加の工夫が必要です)。

 

このように、AIによる個数カウントは高精度で柔軟ですが、導入・運用コストや専門性の要求という点で注意が必要です。

 

まとめ:適材適所で技術を使い分ける

画像認識技術を活用した個数カウントは、製造ラインでの部品数チェックはもちろん、物流倉庫での出荷数確認や建設現場での資材管理など、様々な現場で使われますが、ルールベースとAIベースのそれぞれに強みがあり、現場の状況や要求精度に応じて使い分けることが重要です。例えば、形状がシンプルで環境条件も一定している検査ではルールベース手法で十分高い精度が得られる一方、製品のバラツキが大きかったり、環境光の変動が避けられないような場合にはAI手法の方が安定した結果を出しやすくなります。

いずれの方法を採用する場合でも、共通してカメラや照明の適切なセッティングが成功の鍵となります。鮮明な画像が得られれば、ルールベースではしきい値設定が容易になり、AIベースではモデルが特徴を学習しやすくなります。また、必要に応じてハイブリッドなアプローチも検討できます。例えば、通常はルールベースでカウントしつつ、イレギュラーなケースのみAIで検出する、といった組み合わせにより処理速度と柔軟性を両立させることも可能です。

今後さらにAI技術が発展し、より少ないデータやコストで高性能な画像認識が行えるようになれば、一層多くの現場でAI導入が進むでしょう。ただ、AIに万能性を求めるのではなく、まずは自社の用途に合った手法を見極め、AIが本当に必要なのか?ルールベースで十分ではないのか?など適切に判断することが大切です。

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